味しみしみのおでん
寒い時期に食べたくなる「おでん」。寒さで冷え切った体が温まりますし、お酒もすすむので私も大好きです。大根などの具材に、だしの味がしっかりと染み込んだ「おでん」。最高ですよね?そんな、味しみしみのおでんを手っ取り早く時短で作る方法はあるのでしょうか?
結論から言いますと、味しみしみのおでんを時短で作る方法はありません。
では、味をしっかりと染み込ませるには、長時間煮込むしかないのでしょうか?この記事で詳しく説明します。
冷める時に味がよく染み込むってほんと?
料理をする人なら誰もが聞いたことがあるであろう「煮物は、冷める時に味がよく染み込む」という話。実はこれ正しい理解ではありません。
え?そうなの?
ずっと誤解してた。
味しみしみのおでんを時短料理した結果は?
まずは、私の実験結果をご紹介します。
テレビで何度も聞いたことがあり、「煮物は、冷める時に味がよく染み込む」という話を信じて疑わなかった私は、味しみしみのおでんを時短で作ることに挑戦しました。
- 下ゆでした大根を、やわらかくなる程度に煮込む。時短が目的なので、長時間は煮込まない。
- 鍋ごとベランダに置いて、急速に冷ます(1回目)。
- 完全に冷めたら、キッチンに戻り一度沸騰させる。煮込む訳ではないので、沸騰したらすぐに火を止める。
- 鍋ごとベランダに置いて、急速に冷ます(2回目)。
ポイントは、沸騰した状態から完全に冷ます工程を2回行っていること。冬場のベランダはとても寒く、あっという間に冷めるので、冷蔵庫を使用なくとも急速に冷ます効果が期待できます。一晩寝かせなくても味の染み込んだおでんが食べれるということで、期待は膨らみました。
しかし、結果は残念ながら失敗でした。一晩寝かせたおでんの味には程遠く、想像したほど味は染み込んでいませんでした。急速に冷ます工程を2回も行ったのに、なぜなんでしょう?
冷める時に味がよく染み込むの本当の意味
具材に味が染み込む、つまり塩分や糖分などの調味料が拡散していく際のスピードは、拡散に関する基礎的な法則(Fickの法則)に従うと、温度が高いほどスピードが速いです。
調味料の拡散速度は Fick の法則に従い,拡散速度は温度が高いほど大きい。従って,冷めるときに味がしみ込むということは考えにくい。
出典:畑江敬子; 奥本牧子. 食品の保温温度が食塩の拡散に及ぼす影響. 日本調理科学会誌, 2012, 45.2: 133-140.
それなのになぜ、冷める時によく味が染み込むと言われるか。
温度が高いほうが味が染み込むスピードが速いと言っても、ずっと高温で煮続けたらどうなるでしょうか?具材が煮崩れてしまいますよね。では、具材が丁度良い煮え具合になったものの、味の染み込みが不十分な場合はどうすればよいでしょう?そうです、火を止めて時間を置くのです。時間の経過とともに温度は下がっていくので味が染み込むスピードは遅くなりますが、煮崩れせずに味を染み込ませることができます。
冷めるときに味がしみ込むと言われるのは,加熱直後の食品に比べ,冷めた食品の方が味がついている,すなわち,冷めるまでの時間に味がつくのであって,温度降下の効果ではないといえる。
出典:畑江敬子; 奥本牧子. 食品の保温温度が食塩の拡散に及ぼす影響. 日本調理科学会誌, 2012, 45.2: 133-140.
「煮物は、冷める時に味がよく染み込む」という内容は、「高温の煮物を完全に冷ますには長い時間がかかるので、そのぐらい時間をかけると具材に味が染み込む。」というのが正しい理解です。
上記の内容の「長い時間がかかる」の部分が省略されて、「冷める時に味が染み込む」という内容で広く浸透しているのかもしれませんね。
まとめ
- 温度が高いほうが、具材に味が染み込むスピードが速い。
- 「煮物は、冷める時に味がよく染み込む」というのは正しい理解ではない。
- 高温の煮物を完全に冷ますために長い時間おくことで、具材に味が染み込む。
最後まで読んで頂きありがとうございます。